りとすら

書きたいことがあんまりありません

圧倒的メランコリーの描写力『PSYCHE(プシュケ)』

PSYCHE (プシュケ) (スクウェア・エニックス・ノベルズ)

PSYCHE (プシュケ) (スクウェア・エニックス・ノベルズ)

 各所で話題になっていた。

 表紙に冬目景をもってきた人物は慧眼だろう。彼女の作品にも見られる死と静謐の雰囲気が、この作品にも横溢している。
 物語は主人公が飛行機事故で家族を失うところから始まる。死んでしまったはずの家族が、なぜかかれの目にはぼんやりと見えた。
 ひとり絵を描きながら過ごす「かれら」との奇妙な日々は、やがて、致命的なかたちで変質していく。
―――瀬戸口廉也復活か? 『プシュケ』。 - Something Orange

 冬目景の表紙がキラリと光る一冊で、読み進むにつれてその圧倒的な描写力に引き込まれてしまった。
 あらかじめ失われている主人公が、狂おしいほどに美しくはかなく描かれている。



 家族を飛行機事故で失い、頼りにしていた幼馴染も脳内妄想だと知らされ、その彼女を作っていった従兄弟も突然の自殺を遂げる。
 周囲の温かさもあるのだが主人公にはその温かさに耐えうることも出来ない。伯父さん夫婦の養子の誘い、クラスメイトの遊びの誘い、美術部の顧問の気遣い。すべての気持ちに応えるだけの強さを持たない。


 主人公は、しだいに、自分の作り上げた世界に、耽溺していく。
 そして・・・



 その作り上げられた世界に魅入られてしまうような感覚を覚える。

「蝶?」
「そうよ。小さな小さな、誰も振り返らないような蝶。だけど、みんな興味がないだけで本当はとてもきれいな蝶なんだと思うわ。その蝶がね、葉の上にとまってうたた寝したときに見る夢がこの世界なのよ。昔中国の偉い人が言ったんだ」
姉さんは、思い出しながら言う。
「それでね、蝶が目を醒ましたら世界の全部が消えてなくなっちゃうんだよ」
「全部って全部?」
「全部は全部だよ。世の中の全部。だって夢なんだもん。きっとナオが言っているのはそういうことなんだわ」
―――唐辺葉介『PSYCHE(プシュケ)』213頁

 ペルソナシリーズを彷彿とさせてくれた一節。