りとすら

書きたいことがあんまりありません

昔の『ファウスト』を思いだす―――これぞLOVE!『エレGY』

パンドラVol.1 SIDEーB

パンドラVol.1 SIDEーB

エレGY (講談社BOX)

エレGY (講談社BOX)

−−−「もっと速く! もっと! 光速を超えろーー!!」

―――パートタイム・ビリーバー:泉和良『エレGY』 - livedoor Blog(ブログ)

 熱中すること二時間で読了。


 素晴らしい。素晴らしいよ。
 これぞLOVE!

評価!

 ドラマ構成がしっかりしてて、読者をどきまぎさせてくれるスピード感を絶やさない。イベントの起こるペースが良い。次から次へとめくるめくめくるめくドラマツルギー!恋愛感情のギリギリ感とか。これを純愛って呼ぶんでしょ。うんうん。という。


 一番すごいなーと思ったのは、会話文とかすべてにおける文体の「感覚の良さ」。
 今をきちんと捉えてて、ベタな女の子語りに飽き腐ってた身としては親近感や臨場感がわいてくる。
 文体を「今っぽく」でなく、「今」の文体に制御してきちんと書ける人っていうのは実はあんましいないような気がしてて、その点で稀有な才能なんじゃないかな。日常生活の機微をみずみずしいまでに感じることができる。

参考文献

 とりあえず作中のアンディーメンテは実在します→http://f4.aaa.livedoor.jp/~jiscald/
 関連するはてなダイアリーによると

AMファンを驚かせた「エレgy」ですがついに予告がでましたね。

3月下旬発売予定の「パンドラ」という「ファウスト」の後釜っぽい鈍器雑誌のSideBに掲載されるようです。(単行本先じゃなかった…)

一応、同雑誌のSideAに書いてあったので信憑性に問題は無いかと。というかその確認の為に買ったのがパンドラSideAの購入動機の半分ぐらいを占めてます。そしてまだ中身を読んでません(ぇ

ところで重度のAMファンなら誰しも思う話かもしれませんが、この系列の雑誌の名前がすべてAMキャラの名前として存在するのにちょっとニヤリとしたり。
―――エレgy - 模倣全時空記憶集積回路 - グループandymente

テンポの良い流れるようなリズムの文体は、選り取りされた明瞭なことばで構成されていて純粋で感受性豊かな感性だからこそなせる業なのかもしれません。


伝えたい想いだけが、明確に形をもって伝わってくる――という感覚を憶えました。
―――http://blog.ajin.jp/2008/07/05/%e3%82%a8%e3%83%acgy

それはこの人が持っている天性のセンスみたいなものが私にクリティカルで、しかも当たり前にインターネットから人が繋がっていく私たちの時代の空気が、この小説にはぎゅっと詰まっているからなのかもしれません。しかもとびきりにキュートな形で。


もしかしたら伝わる人にしか伝わらないかもしれないけれど、私はこの小説が大好き。そんなことを、胸を張って言える作品でした。もう一度、素敵!
―――エレGY / 泉和良 - FULL MOON PRAYER

 じゃあもう一度、素敵!

素敵!

 モノ作りの人(クリエイター)が自由に対して感じる光とは何か、という問題は常に付きまとう。

初心者が悩むような事だと、自分を嘲笑った。
随分昔に通り越したはずの葛藤の事だが、そんなものが、エレGYの影を伴って完全に僕の仕事を立ち往生させた。

 片手間で自分が食べていけるだけギリギリの生活を営むぐらいだったら、努力して売れるパーツを組み合わせればいいわけだ。勉強すれば、誰でも到達できてしまう地点に。生活のための姑息な手段に。


 それは果たして幸せなのか。
 それを受けいれてまで、なんでクリエイターという職を食いブチにしようとしているんだろう。


 主人公は出会った女の子に対するラブレターのなかで、彼女のことを第三者に見立てて、こう書く。

彼女は眩しかった。
彼女から感じるそのエネルギーはなんだろう、と思った。
それはまるで光だ。
そう……、彼女は、僕が生み出した作品たちから、僕がとうに無くしてしまった『光』を受け継いでいるんだと分かった。
彼女のおかげで、気がつく事ができた。
彼女から発する『光』の正体……
僕が捨ててしまった大切な物が、いったい何なのか……
それは、作品を作る上でもっとも重要な物……、勇気だ。

 それだけだったら、この作品の魅力は半分だ。


 勇気をもって戦っていくことは辛さを伴う。そのまま人生をかける戦いになってしまうくらいに。
 その辛さの暗示として、主人公の通う碁会所の先生がチラつく。
 物語の後半、物語の要請上仕方なく幕引きになる先生は、碁会所を閉める話を主人公に伝えながらこう呟く。

「泉君も、人とは違う事をしてるんだろ?」
「えっ……、ええ、まあ……」突然聞かれて、受け答えに戸惑う。
「はは、しょうがないな。人とは違う生き方は苦しいことばっかりだぞ?」先生の言葉は重い説得力を伴っていた。
「……でも、誰もしないような生き方をせんと、特別な存在にはなれない、ってな。……がんばれよ」

 勇気をもって自分の正しいと思うものを追及しつづける事だけを煽る恋愛小説ってだけじゃない。オリジナリティを発揮しようとする人たちには辛さが付きまとう。


 なんで、苦しんでまで自分の進んだ道を進もうと思うんだろう。
 それには簡単な答えがある。先人たちの放った光を僕らが体験しているからだ。作中の主人公ならフリーウェアゲームという世界で、エレGYは歌を主人公から。光は受け継がれる。
 

 光はいろんなところにある。それは勇気と仮に言い換えてもいいかもしれない。女の子の笑顔って言っちゃってもいいと思う。子供の寝顔でもいい。奥さんの微笑みでも、友達のうれし涙でもいい。
 日本のどこかで、漫画雑誌を手にとって、立ち読み中に泣いちゃった男子高校生でもいい。*1
 その光が、いつか、他の人に、光となって届く。

「光速を超えろーー!」

*1:ちなみに僕です